2013年5月3日金曜日

克服

ケン・ローチの映画はどうにも苦手だった。
いい,悪いではなく,個人的な好みのレベルでどうにも心に響いてこなかったのが要因。
こればかりは嗜好の問題なのでどうにもならない。

しかし,この映画は面白かった。


70代にして,ケン・ローチのキャリア最大のヒットになったとのことである。
確かにストーリーも伏線の張り方も,他の彼の作品に比べるとわかりやすいし,親しみやすいのかもしれない。

主人公のロビーは,暴力沙汰を繰り返している札付きだが,社会奉仕活動中にウィスキーのテイスティングに目覚める。そこから彼の中で何かが変わり始める。

感覚を研ぎ澄まし,それを言葉で表現して他者に伝えることで,コミュニケーションが生まれる。言語によって共通理解を形成していく過程で,ウィスキーそのものへの共感を得るだけではなく,人と人とのコミュニケーションや理解も形成される。酒は評価の対象であるとともに人間関係を形成する触媒にもなり得る。

僕らがビールでやっていることも基本的には同じなので,ものすごく共感できた。

天使の分け前」とは,ウィスキーのカスクの中で毎年 2% 程度ずつ減っていく分のことを指す。天使に分け前を払うことで,酒は年々熟成していくわけだ。

人間の成長も同じで,何かを支払う代わりに年々熟成が進んでいく…そんなことを考えさせられる作品だった。

映画の中で主人公たちがしたことは,決してほめられることではないかもしれないけれども,ウィスキーという触媒を介して,主人公が目覚め,成長し,未来を見つめていく過程は何ともすがすがしい。終わり方は北野武の『キッズ・リターン』にも似たさわやかさを感じた。あの作品も暴力や破壊が転じて未来の希望につながっていた。

この辺が僕の心の琴線に触れたんだと思う。

僕らも表現力をまだまだ磨かないとね。人間としての熟成も足りないしね (^^;

ちなみに劇中のテイスティングイベントで講師をしているウィスキー・エキスパートを演じているのは,スコッチの世界的権威であるチャールズ・マクリーン氏ご本人。あと,ロビーたちがテイスティングしているシーンでは壁に(おそらくウィスキーの)フレーバー・ホイールがかかっていたりして(どんなものかはココあたりで見られる),このあたりもウィスキー愛好家には楽しいんじゃないだろうか。映画観てて,ビールで同じようなことが描かれてたら,僕ら興奮するだろうからなぁ。

ウィスキー好きじゃなくてもホントに楽しめる作品。僕のビア仲間の皆さんにも超おススメ。


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